鹿皮紙への道のり

皮革を生業にしているという立場、
皮革を鞣す技術と薬品の知識、猟師での経験、そして羊皮紙との出会い。
自分にできること。
自分にしかできないこと。
より良い未来のために。
関わる全ての人たちの喜びのために。
長い時を経てもなお誰かに繋いでいくその刻まで。

鹿皮のこと

鹿皮紙作りに使用する原皮は有害鳥獣駆除によって捕獲された鹿の皮である。

温暖化や耕作放棄地の拡大、鹿の繁殖力の高さなどの要因で鹿の生息域は拡大し、鹿による農作物被害額は令和2年度で56億円に上っている。その対策として個体数調整のための駆除活動が各地で行われており、その捕獲頭数は年々増え、令和2年度には約67万頭の鹿が捕獲されている。

捕獲された鹿の個体は、肉はジビエ肉として、皮はレザーに加工され鞄や靴などの皮革製品として活用されている。鹿革の特徴は手触りがソフトできめが細かく、メガネ拭きなどのセーム革の素材として認知されているのではないだろうか。


しかし、現在そういった捕獲した資源の活用量は捕獲量のわずか1割程度にとどまっており、残りのほとんどが廃棄・焼却処分されているというのが現状としてある。

その理由にはコスト面や技術面、他の差材との差別化など様々な課題があるが、私たちの作る「鹿皮紙」が、鹿皮の活用量増加のための一つの選択肢になれればと思い活動をしている。

猟師のこと

有害鳥獣駆除において一番大切な存在が実際に捕獲を行う猟師たち。

しかし、猟師の数は1975年からの約4〜50年で6割程度減少し、高齢者の占める割合も増加し続けている。

この猟師の数の減少も鹿の生息数が増えている原因の一つとなっている。


近年、猟師を目指す若い人も増えてきており、中には精肉や製品作りまで自分で行っている方も。

猟師の仕事は、広大な森の中にいる野生の鹿を銃や罠て捕獲し、解体所まで運んでくるという、相当な労力と経験や技術も必要な仕事。

鹿皮紙を作り広めていくことで、鹿皮の素材としての価値が伝わり、猟師という仕事の魅力まで伝えるカタチにしていきたい。

獣害のこと

林業、農業の方々の頭を悩ませる 獣害問題。

農作物被害は鹿だけで年間56億円近くにもなる。


主な獣害としては農作物被害、広葉樹の樹皮食害、杉の剥皮被害、森林への影響、食害による土壌流出、食害による裸地化が挙げられる。

鹿の生息域は年々拡大しており、その要因は温暖化や繁殖力の高さ、耕作放棄地の増加などがある。また鹿を捕獲する狩猟者の減少もその一因となっている。


国や自治体は、鳥獣対策の三柱として個体群管理(鳥獣捕獲)、侵入防止対策(柵の設置等)、生息環境管理(草払いによる餌場・隠れ場の管理、緩衝帯の整備や放任果樹の伐採など)を実施し、被害を減らす取り組みを行なっている。

僕らは獣害被害を止めることはできないが、鹿皮紙により獣害の事を多くの人に知ってもらうためのツールになれたらと考えている。


獣害はどこか遠くの話ではない。

身近な問題に関心を持つきっかけに繋がるように、発信していきたい。

解体所のこと

なかなかクローズアップされることのない解体所。

しかし、未利用資源活用のための重要なポイントとなるのが解体所となることを知っていただきたい。


解体所は自治体が運営する場合と民間が運営する場合があり、ジビエ肉を適切に処理し活用するために作られている。

鹿皮はジビエ肉を処理する際の副産物として生まれる。

この場所で鹿皮を資源として活用するのか、廃棄するのかが判断される。

資源として活用するためには、穴や傷が出来ないように皮を剥離させ、腐敗させないように保存をしなけらばならない。

この工程の良し悪しで、その後の活用の幅も左右される。


解体所にもっと注目し、鹿皮をもっと活用できるように。

僕らは鹿皮を廃棄するのではなく資源として残る道を一緒に創り上げていきたいと考えている。

そのためにもより理解を深めていきたい。

羊皮紙の先駆者たち

羊皮紙はヨーロッパや中東で生まれ、現在もその技術は受け継がれている。

初めて羊皮紙に出会ったのは、イタリアのフィレンツェで羊皮紙を扱う工房でのことだった。

パウロさんから羊皮紙の作り方や扱い方、歴史の話しを聞き心が躍った。

ここから鹿皮紙プロジェクトが動き出す。


日本に帰り、羊皮紙研究家の方や羊皮紙の歴史を教える大学の教授に連絡を取りお話しを聞かせていただいた。

古典的羊皮紙作りを北海道にて一人製作されている方に古典的羊皮紙作りを教わった。

東京に戻り知る皮革技術を一から再考し、羊皮紙になるように置き換える実験を始めた。

実験場では、さまざまな難問を一緒に考えてくれる素晴らしい先生たちと出会い、鹿皮紙研究を深めることが出来た。

日本の羊皮紙

日本では、歴史上羊皮紙の生産記録は残っていない。

国内では羊皮紙製造で使用する羊皮と山羊皮の確保が出来ないことが一つの原因かと思われる。

また日本には和紙という素晴らしい素材があるため、敢えて羊皮紙を作る必要が無かったこともあるのだろう。


僕らは日本で前人未踏と思われる鹿皮を使った羊皮紙の生産を始める。

日本には鹿という年間に60万頭近く捕獲されている動物がいる。


もともと羊皮紙は、生活圏の近辺にいる動物の皮を使って作られていた。

羊や山羊と比べて鹿皮は類似する点が多く、日本が培った皮革技術で羊皮紙が作れるという確信めいたものがあった。


また、鹿皮を使って日本で作る羊皮紙にしかできない特性や可能性を見出すことが出来ると気が付いた。

廃棄されている鹿皮がもったいないから資源として利用したいのではなく、鹿皮を資源として使うことで良い羊皮紙が出来るから利用したい。


そして日本で製造される羊皮紙「鹿皮紙」の歴史が始まる。

鹿皮紙のこと

「鹿皮紙」とは、鹿の皮で作る羊皮紙のこと。

※羊皮紙とは動物の皮でできた薄い紙状のもので、とても古い歴史がある素材である(詳しくは「羊皮紙の歴史」をご参照ください

「鹿皮紙」という素材は、紙のように筆写素材として文字を書いたり、コピー機で文字や写真を印刷できたりと、レザーとは異なる用途で使用することができる。加えて、ものづくりの素材として照明や家具、雑貨などの幅広い商品に活用されることも期待できる。

また、有害鳥獣駆除で捕獲された鹿の皮は、傷や穴が有ることが多く、そのことがレザーへ加工する際の課題にもなっているが、「鹿皮紙」は原皮の質に捉われず製造することができる上、小さいサイズで使用できる用途があるため、レザー利用には向いていない原皮も使用できることが特徴である。


現在、「鹿皮紙」を工場にて製造している事例は無く、国内で使用されている羊皮紙の殆どが輸入されたものだ。私たちはこの「鹿皮紙」という素材を捕獲された鹿皮を原料として作ることで、鹿皮の新しい価値と魅力に出来ると考え「鹿皮紙」作りを行っている。

鹿皮の利活用量を増やすためにも、これからも素材としての可能性を探り続けていきたい。