私たちについて

鹿皮紙は
千年生きる紙となる

特別なモノとは、
見え難いところに多くの物語が存在する
持っているだけで触れているだけで、
背中をそっと優しく押してくれるようなモノ
そんなモノに囲まれて生きていけたら素敵だと思う
きっと誰でも一つや二つ、
目を閉じたら浮かんでくるはずだ
私たちはこれから鹿皮紙が
そんな特別なモノになれるように、
物語を紡ぎ続けていきたい
誰かの特別なモノとして生活を共にし、
長い時を経てもなお誰かに繋いでいくその刻まで

「羊皮紙」との出会い

初めて「羊皮紙」と出会ったのは革の仕事でイタリアのフィレンツェを訪れたときだった。

秋のローマで開催される革の祭典に参加し、革職人の工房を訪れ、革を製造するタンナーが集まるトスカーナ地方に足を運ぶ旅。

多くの出会いと刺激的な物に触れる旅の中、現地に住む友人が是非案内したいところがあると連れて行ってくれた。


職人のパウロさんが一人で製作と販売を行っている小さな羊皮紙工房。

そこではじめて羊皮紙に触れた。


革でも紙でもなくその独特の肌の白さや質感は生きていた名残がそこにあり、その力強さに崇高さを感じた。

それと同時に羊皮紙は伝統の重みを持つ歴史ある存在であるにもかかわらず目を引く斬新さを持っていた。

後で知ったことだが、羊皮紙の製造技術は聖書のために何百年もの時をかけ修道院で磨かれたものだという。崇高さとはそのような背景と関係しているのかもしれない。


帰国しすぐに羊皮紙のことを調べた。

「羊皮紙」とは獣の皮を使って作られる筆写材料のことで、羊以外にも山羊や仔牛など製造される地域に根差した獣の皮で作られていた。

皮という命のかけらで作られた羊皮紙が筆写材料として千年もの時を超え伝えたい言葉を後世に繋げていた。

パウロさんの工房で羊皮紙に触れたときに感じた崇高さは命の尊さに近いものであると想った。


一方で、革の仕事をしながら猟師をしていることもあり、日本の山に棲む鹿のことを想う。

古来より日本の森を駆けまわる鹿たちは祀られ大切にされてきた。

しかし現在では、予想をはるかに越え増え過ぎてしまった鹿たちが、山や田畑を荒らす害獣となり追われ捕獲される身となっている。


ただ捕獲されるだけではなく命のかけらである皮を崇高な羊皮紙として千年生すことはできないだろうか。

そして鹿皮紙として次の時代に何かを残すことはできないだろうか。

そんな想いから千年生きる羊皮紙つくりへの道へと歩みはじめた。

鹿皮紙作りの始まり

千年生きる紙と言われる羊皮紙。

ニホンジカの皮を生かした羊皮紙「鹿皮紙」作りの試みは、獣害捕獲された鹿たちが辿る道を調べる事から始まった。


現在、日本では年間60万頭近くの鹿が捕獲されている。捕獲された鹿たちの皮は利用されることなく大部分が廃棄される。

地域により廃棄するために焼却費をかけ処分しているところもある。

このような現状を知ったとき、鹿皮を羊皮紙として活かすという目的に新たに社会的な意味が加わった。


このプロジェクトは、山からの恵みを無駄にしないだけでなく、山と地域が抱える密接な問題にも深く関わることが出来ると考えた。

起こっている問題を良い方向へ導ける可能性が有る気がした。

自分が、猟師として手で考え足で知ったことも役立つかもしれない。

こうして鹿皮を羊皮紙へと生かす試みは、山に関わる地域問題も含め試考していくこととなった。

目指す未来

僕らが目指す未来とは、「鹿皮紙プロジェクト」によって今より多くの優しい未来を描けること。

素材や製品に触れたことで、この物語を共有し誰もが共感できるシステムを作ること。

それが僕が考える鹿皮紙を本当の意味で「千年生きる紙」にすること。


少し先の未来では、今まで当たり前に廃棄されていた未利用資源の鹿皮が見直され、各地域で資源として活用され始める。

たくさんの人たちの手を辿り、多様な可能性を持つ「鹿皮紙」として生まれ変わった鹿皮は、優しい想いとアイディアで生活に浸透していく。


この紙をふと手に取った人は、これが身近な森の鹿なんだと気づかないかもしれない。

気づかなくても見て触って使うことでしっかりと関わっている。


そんなシステムを作るには、循環する繋がり一つ一つに尊敬と理解を持ち、各役割をより明確にしお互いに感謝することが大切になる。


日本の森で繁栄する鹿たち 

200年先の森を守り育てる林業の方

田畑で自然や獣と戦い、実りを結ばせる農業の方

森と作物の被害を防ぐため、鹿の命を請け負う猟師

命を活かす準備を整え、試行錯誤し普及を試みる自治体や解体所の方

培われた技術を使って新たな価値を創造しようと挑む技術研究者

得た成果を活用し、人々の暮らしを彩る作品を届けるクリエーターの方

そして、見て触れ共感し行動を起こしてくれる人たち

関わったすべての人たちが優しい未来への案内人となり、日々成長するそんな循環


このプロジェクトが認知され日本の森林環境が適切に管理され森も人も嬉しい仕組みが出来る事で「鹿皮紙」が無い未来へ進むことになる。


でもそれは、森も鹿も人も自然に暮らせる未来。僕らの目指す世界。

まずは100年先の未来に向けて歩み出す。

理想が現実になるその日まで、今日も活動を続ける。

「千年生きる紙」に想いを託して


鹿皮紙プロジェクト代表 カワダ シュウジ